この本は中国の宋の時代に生きた武門の楊家を題材にした『楊家将』の続編。楊家将では楊家の家長・楊業の壮絶なる生き方を書いたが、今回の『血涙』では悲運と言うべきか国を背負った兄妹の戦いを描いている。
北方謙三氏の描く時代物は日本であれ中国であれ、登場人物の心の動きなどを中心に描き時代背景などはあまり詳しくは書かない。それだけに、物語の登場人物に感情移入しやすくのめり込んでしまう。また、大きな戦いではスピード感があり、一対一の場面では心の戦いになる。これが、読んでいてたまらなく面白い。実に男臭い小説だ。『楊家将』を読んでからこの作品を読むと面白さは倍増する。
主人公の光武利之と大塩平八郎の息子格之助の友情を描いた本だが、続編というべきか主人公・光武利之の20年後を書いた『独り群せず』を読んで面白かったので再読した。一度読んでいるけど読み始めるまではほとんど内容を覚えていなかったが、読み始めると記憶が戻って来るんですね。愚直過ぎる格之助と人に縛られない生き方をしてきた利之のふたりが剣を通じてお互いを認め合っていく。特に主人公の利之はカッとなる辺りに若さがあっていい。また、惚れた女に対しての不器用さというのも微笑ましい。北方謙三氏は男が惚れる男を書くのが上手いね。
主人公は大塩平八郎の乱を描いた『杖下に死す』に出てくる光武利之。彼は幕府お庭番の村垣淡路守定行を父にもつ剣豪。妾の子として表舞台にはでないが裏で暗躍する。話は大塩平八郎の乱から20年後のこと。光武利之は剣を捨て大阪で料理人として静かに暮らすが、幕末の騒がしさが勝手に光武に押し寄せてくる。
この本だけでも楽しめるが『杖下に死す』を読んだ方がいいでしょう。北方謙三の描く時代小説は堅苦しくなく、時代劇版のハードボイルドと言っていいでしょう。これまでと少し違うのは主人公が料理人なので料理に関することが多く出てくる。これも、また面白い。読んでいて肌がヒリヒリする感覚を味わえるのも僕は好きです。
利之 三願別荘の主人 幕府お庭番・村垣淡路守定行の息子
お勢 利之の妻
直治 利之の息子 三願の主人
お妙 直治の妻
利助 直治の息子
お藤 三願別荘の女中
お律 三願別荘の女中 内山彦次郎の妾
内山彦次郎 西町奉行所 与力筆頭
室田哲之進 西町奉行所 同心
大塩格之助 大塩平八郎の息子
鳥羽忠衛門 福井藩 蔵屋敷留守居
加納光之進 福井藩 藩士
村垣範正 勘定奉行 光武利之の弟
土方歳三 新撰組 副長
北方謙三氏の作品はこれまで時代物しか読んだことがなく、今回初めて現代物の作品を読んでみた。主人公の哲二は小さな工場で毎日決められたとおりに螺旋を切っているが、その裏では薬物の運び屋として生きている。哲二は21歳という年の割には老成しているようなところに不自然さを感じたが、若さ故の暴走や固執みたいなところは読んでいて面白い。取引先の男と緊迫する場面は余計な描写をせず、“間”だけで読む方に緊張を与える。この辺は『日向景一郎』シリーズで感じたのと同じだった。